2012年2月25日土曜日

2月25日

◎今日のテキスト

 桜の花の散りゆくころ、やわらかく萌えわたる若葉の頃、その頃の旅の好みを私は海よりもおおく山に向って持つ。山と言っても、青やかな山と山との大きな傾斜が落ち合うような、深い溪間が恋しくなる。
 上州の吾妻川《あがつまがわ》は渋川町で沼田の方から来た利根川と落ち合っているが、その渋川町から十里ほど溯ったあたりに普通に関東耶馬溪と呼びなされている溪谷がある。両岸は切り立ったような断崖で、その断崖には意外なほど多くの樹木が生えている。その相迫った断崖の底に極めて細く深く青み湛えた淵は、時にまた雪白な飛沫をあげた奔湍となつて流れ下る。
 溪流そのものも矢張り他に見られぬ面白さを持っているが、私はことにその流を挾む両岸の断崖に茂っている木立を愛するものである。樹は多く年を経た老樹で、土気とぼしい岩の間に、ほとんど鉱物化したようなその根を張り枝を伸ばして、形あやしく立っている。私が初めそこを見たのは秋の末、落葉の頃であった。いわゆる寒厳枯木《かんがんこぼく》の風情《ふぜい》は充分に眺められたが、それを見るにつけても若葉の頃がなお一層にしのばれた。
 ——若山牧水『樹木とその葉』より「若葉の頃と旅」の一部

◎日めくりの葉っぱスケッチについて

「葉っぱのスケッチは毎日描いてるんですか」
 とよく聞かれる。
 そうです、と答えると、たいていの人はびっくりする。描きためてあったものを、日付だけ描きこんで、一枚ずつ出していると思われていることが多いらしい。実際には、毎日一枚、翌日に出すものを描いている。
 所用時間は30分程度。こみいったものはもう少し時間がかかる。
 本当は少しは描きためて、心の余裕を持ちたいのだが、なかなか描きためることができない。一枚描くと力つきて、1日に二枚三枚と描くことがむずかしい。よほど余裕のある日にそういうことをやっておきたいのだが、そういう日はなかなか来ない。
 でも、葉っぱを描くのは楽しい。描く葉っぱがつきたら、なにか別のものを描くかもしれない。

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