2012年2月19日日曜日

2月19日

◎今日のテキスト

西陽の射してゐる洗濯屋の狭い二階で、絹子ははじめて信一に逢つた。 十二月にはいつてから、珍らしく火鉢もいらないやうな暖かい日であつた。信一は始終ハンカチで額を拭いてゐた。
絹子は時々そつと信一の表情を眺めてゐる。
長らくの病院生活で、色は白かつたけれども少しもくつたくのないやうな顔をしてゐて、耳朶の豊かなひとであつた。顎が四角な感じだつたけれども、西陽を眩しさうにして、時々壁の方へ向ける信一の横顔が、絹子には何だか昔から知つてゐるひとででもあるかのやうに親しみのある表情だつた。
信一はきちんと背広を着て窓のところへ坐つてゐた。仲人格の吉尾が、禿げた頭を振りながら不器用な手つきで寿司や茶を運んで来た。
「絹子さん、寿司を一つ、信一さんにつけてあげて下さい」
さう云つて、吉尾は用事でもあるのか、また階下へ降りて行つてしまつた。寿司の上をにぶい羽音をたてて大きい蝿が一匹飛んでゐる。絹子はそつとその蝿を追ひながら、素直に寿司皿のそばへにじり寄つて行つて小皿へ寿司をつけると、その皿をそつと信一の膝の上へのせた。信一は皿を両手に取つて赧くなつてゐる。絹子はまた割箸を割つてそれを黙つたまま信一の手へ握らせたのだけれども、信一はあわててその箸を押しいただいてゐた。
ふつと触れあつた指の感触に、絹子は胸に焼けるやうな熱さを感じてゐた。
信一を好きだと思つた。
――林芙美子「幸福の彼方」より

◎ストレッチ呼吸「肺の左右をそれぞれストレッチ」

まず右の肺から。
右手を上に伸ばして、頭の左側をつかむ。そのまま頭を左に傾けながら、肘から右脇腹にかけてグーンと伸ばす。
その状態でまず息を口から全部吐きだし、吐ききったあとに、鼻からゆっくりと吸っていく。そのとき、伸びている右側がさらに伸びるように、右の肺に空気をいれてふくらませていくイメージで、いっぱいに吸いこむ。
右肺が満杯になったと感じたら、いったん止めてから、口から自然に息を抜き、あとは自然呼吸に戻す。

0 件のコメント:

コメントを投稿